謂れ無き存在 ⅦⅩⅨ
「はい、読んでみます。それに、欲しいものは、自分で買います」
「なに言ってんの、洸輝にはお金が無いでしょう」
真美が、意地悪そうに言う。でも、直ぐにウインクした。
「はい、はい、奥様。どうぞ、買ってください」
俺は丁寧に頭を下げて、お願いする。真美が笑顔で頷いた。
「あっ、詩もいいかもしれないよ」
「えっ? 詩ですか・・」
俺は学校の図書室で見たことがある。分かり易い詩もあれば、意味難解な詩もあった。
ただ、綺麗な言葉を並べただけの、詩もある。
「詩はね、言葉の絵画だよ。書かれた言葉をイメージする。人によって、ずいぶん解釈が異なるんだ。面白いと思うよ」
「詩って、歌手が甘く歌ったり、意味なく叫んでいる歌もあるけど・・」
「確かに、そうだね。でも、私が言う詩は、音楽に合わせた詩ではない。宗教や哲学に通じる詩集だ。探してごらん。例えば、ルバイヤートの四行詩とかを・・」
「え~、難しそう。無理だと思うな」
「もしかしたら、詩が洸輝君の存在を、導いてくれるかも」
「ほ、本当なの?」
「あなた、急がせないでね。ゆっくり読ましたらいいの・・」
「そうよ、洸輝の脳は軽くて、直ぐに壊れてしまうわ」
真美の言葉に、俺は苦笑する。
「本当だから、仕方ないさ。重くなるよう、ご指導ください。愛する奥さま」
「はい、ご主人様。どれほど、詰め込めば重くなりますか?」
「まあ、ふふ・・、ふたりの会話は、いつ聞いても面白いわ。ウフフ・・」
明恵母さんが笑い出したので、大笑いになった。ただ、トーマス小父さんだけが、意味が分からず不機嫌だった。
真美が、説明すると大きな声で笑い出した。
「ワッハハ・・、ハハ・・」
その場の全員が、再び笑い出す。
「うふふ・・、さあ、帰りましょうよ。ふふ・・」
真美が笑いながら提案したので、ようやく帰り支度を始める。
ショッピング・センターから公園に寄る。
「ここはね、日本庭園があるの。高崎市が姉妹都市の記念に、東屋や鳥居を建てたの」
「まあ、そうなの。早く見たいわ。さあ、行きましょう」