謂れ無き存在 ⅦⅩⅧ
テーブルの上は、瞬時に皿の山と化した。
食後、男性三人はコーヒーを飲む。真美と明恵母さんは、デザートのフルーツ・パフェを食べている。
「ところで、オヤジさんは神学校へ通ったけど、どうして?」
俺は、気になっていた。
「ああ、運命と宗教は非常に関連している。それを学びたくてね。運命や宿命は人間の力が及ばない。だから、多くの人間が本質を探究してきた。特に、古今東西の哲学者たちがそうだ」
俺の軽い脳には、到底理解できない話だが、興味が湧いてきた。
「じゃ、宗教家は?」
「宗教も同じことが言えると思う。ただ、牧師や神父は神のお告げを伝道している人たちだ。哲学者じゃないよ」
「仏教は、神様でなく仏様だけど・・」
「うん、そうだね。お釈迦様は、やはり哲学の考えから、生死や幸不幸など人生の疑問を悟った人。お坊さんたちも、牧師や神父さんと同様に、経典の教えを広める役目だ」
「えっ、経典?」
「経典は、キリスト教では聖書。イスラム教ではコーラン。仏教では仏典や経文だよ」
明恵母さんが、オヤジさんの話を聞き、俺に注意する。
「洸輝さん、真剣に聞かない方がいいわよ。適当に聞きなさいね」
「いえ、明恵母さん。俺は、真剣に聞きます。だって、運命の言葉で始まり、考えられない方向に進んでいる。例えば、真美とアメリカで結婚? オヤジさんの言葉が、俺の謂れを証明してくれた」
「確かに、そうね。自分の存在を否定していた洸輝さんが、真美を通じて存在意識に目覚めたものね」
あのセミナーから、俺の空白な人生が輝き始めた。だから、運命とか宿命の言葉に、反応するようになった。
「明恵! 考えることは、洸輝君にとって大切だと思う」
「そうよ、お母さん。洸輝は、もっと勉強する必要があるわ」
トーマス小父さんと親密に話していた真美が、突然に言葉を挟んだ。
「俺だって、勉強をしたかったさ。親も金もないから、進学できなかった。あ~ぁ、悔しいな・・」
「なに拗ねているの。学校だけが勉強ではないでしょう。人生勉強は、自分の力でやれるのよ!」
「・・・」
「そうだよ、洸輝君。私の部屋に、たくさんの図書がある。自由に読みなさい」