ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅦⅩⅥ 

 深まる秋の風に吹かれ、五人の思いが空へ舞う。トーマス小父さんも何かを呟き、胸の前で十字を切った。瞳に涙を浮かべている。
《トーマス小父さんって、優しい人なんだな。俺は好きになった》
「洸輝、ありがとう。彼も、あなたが好きだって思っているわ」
「そうか、もっと話せるといいね。頑張って、英語を覚えなきゃ・・」
 俺の眼差しに気付き、彼はウインクする。俺は片手を上げて応じた。
「ナウ、 レッツ ゴオ トゥ チャ~チ!」
 トーマス小父さんが呼び掛ける。
「さあ、行きましょうか? 真美さん・・」
 明恵母さんが、真美に声を掛ける。真美は、もう一度石碑に手を置く。俺も彼女の手の上に、手を重ねた。
《真美のお母さん・・。おかげで自分の存在理由が、分かり始めた。感謝します》
 車に戻り、白亜の教会へ向かった。
 教会前の石段を上る。近くで見る教会の建物は、歴史の重みを感じた。中は至ってシンプルな内装。決して明るくないが、暗くもない。天井近くにある窓から、日が射し込むからだ。
「洸輝、祭壇の前に行きましょう」
 真美が、俺の腕に手を差し入れた。
「よし、式を挙げようか・・」
 二人は並んで歩く。オルガンの音が響き始める。
《確か、これは結婚のときに流れる曲だ》
「早く、こちらに来て・・」
 オヤジさんが祭壇の前に立ち、俺たちを待っている。
「あのオルガンは、誰が弾いているの?」
 不思議に思う真美が、オヤジさんに聞いた。
「ああ、あれは明恵が弾いているんだ」
「え~、明恵母さんが? 驚いたな」
「さあ、祭壇に向かって・・」
「あれ、でも、神父さんがいないよ」
「ここは、カトリック教会じゃないから、牧師さんだ。それに、私は神学校で勉強したから、一応牧師の代わりができるよ」
 俺と真美は半信半疑ながら、祭壇の前に立つ。トーマス小父さんと明恵母さんが、後ろに並ぶ。
「汝、洸輝は新婦の真美を妻として・・、汝、真美は新郎の洸輝を夫として・・」
 オヤジさんは、儀式の言葉を暗唱する。俺と真美はこうべを垂れ、厳かに聞く。

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