謂れ無き存在 ⅦⅩⅣ
トーマス小父さんは親指を立て、大きな口を開けて笑った。
「どうしたの? 大騒ぎだこと・・」
明恵母さんが、真美の試着室から顔を見せる。
「いや、なんでもないよ。それで、真美さんの具合はどうかな?」
「ええ、ぴったりよ。とても綺麗で、可愛い花嫁になったわ」
「早く見たいもんだ・・」
オヤジさんがソワソワと待ちわびる。俺も早く見たいと思った。
《真美の花嫁姿かぁ~、ドキドキするな》
試着室のドアが開き、真美が目の前に現れた。
「ジャジャ~ン。はい、あなたの花嫁よ。どうかしら?」
答える言葉を忘れるほど、ただ見惚れてしまった。トーマス小父さんとオヤジさんも、身動きできない。呆然と、真美の姿に心を奪われていた。
「どうしたの? 魔法に掛かったように、黙っているわ」
「いや~、美しい花嫁だ。なあ、洸輝君!」
「ああ、そうですね。本当に、真美なのか?」
彼女が俺の顔に、ピタリと顔を寄せる。
「私が見える? 本物の真美よ」
「ああ、確かにそうだ。間違いないよ」
「そう、分かればいいのよ」
目の前の唇が、俺の鼻にキッスをした。
「はい、魔法が解けたでしょう」
トーマス小父さんが、真美に近づき頬にキッスをした。
「メッチェン、ワッツ ア ビューティフル! ライク ミリアン、ライク メッチェン」
「そうね、綺麗だわ。トーマスは、この母親にしてこの娘と言っているの。確かに真美は、亜沙子にそっくりよ」
そのまま、センターの中を歩く。周りから拍手が湧き上がる。俺は恥ずかしくて、真っ直ぐに前を見ることができなかった。真美は、にこやかに手を振って応える。
《俺はシャイだな。真美を見習わなくてはいけない。よっし、頑張ろう》
「ハ~イ、センキュウ~」
「もう、洸輝はそれだけなのね・・」
俺はしょげる。
「ごめん、それで構わないのよ」
駐車場の車に乗ることができ、俺はホッとする。