ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅦⅩⅣ 

 トーマス小父さんは親指を立て、大きな口を開けて笑った。
「どうしたの? 大騒ぎだこと・・」
 明恵母さんが、真美の試着室から顔を見せる。
「いや、なんでもないよ。それで、真美さんの具合はどうかな?」
「ええ、ぴったりよ。とても綺麗で、可愛い花嫁になったわ」
「早く見たいもんだ・・」
 オヤジさんがソワソワと待ちわびる。俺も早く見たいと思った。
《真美の花嫁姿かぁ~、ドキドキするな》
 試着室のドアが開き、真美が目の前に現れた。
「ジャジャ~ン。はい、あなたの花嫁よ。どうかしら?」
 答える言葉を忘れるほど、ただ見惚れてしまった。トーマス小父さんとオヤジさんも、身動きできない。呆然と、真美の姿に心を奪われていた。
「どうしたの? 魔法に掛かったように、黙っているわ」
「いや~、美しい花嫁だ。なあ、洸輝君!」
「ああ、そうですね。本当に、真美なのか?」
 彼女が俺の顔に、ピタリと顔を寄せる。
「私が見える? 本物の真美よ」
「ああ、確かにそうだ。間違いないよ」
「そう、分かればいいのよ」
 目の前の唇が、俺の鼻にキッスをした。
「はい、魔法が解けたでしょう」
 トーマス小父さんが、真美に近づき頬にキッスをした。
「メッチェン、ワッツ ア ビューティフル! ライク ミリアン、ライク メッチェン」
「そうね、綺麗だわ。トーマスは、この母親にしてこの娘と言っているの。確かに真美は、亜沙子にそっくりよ」
 そのまま、センターの中を歩く。周りから拍手が湧き上がる。俺は恥ずかしくて、真っ直ぐに前を見ることができなかった。真美は、にこやかに手を振って応える。
《俺はシャイだな。真美を見習わなくてはいけない。よっし、頑張ろう》
「ハ~イ、センキュウ~」
「もう、洸輝はそれだけなのね・・」
 俺はしょげる。
「ごめん、それで構わないのよ」
 駐車場の車に乗ることができ、俺はホッとする。

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