謂れ無き存在 ⅦⅩⅡ
「この街は、デトロイトに近いでしょう。だから、デトロイトの工場地帯へ機材を運ぶ貨物車が通るの。この街だって、ケロッグの工場があるわ」
「なるほど、デトロイトは自動車産業で有名だよな」
オヤジさんが納得して、頷く。
「ケロッグと言えば、高崎にも工場が有るよね。施設の朝食で、良く食べさせられたな」
「そう、そう、確かにそうだ。高崎の姉妹都市もこの縁でなったらしい」
「ええ、私も知っているわ。夏休みになると、両方の町の高校生が互いにホームスティするの。私の友達も行ったわ」
「真美は、しなかったのかい?」
「だって、行けたとしても、受け入れができる家庭じゃなかったから・・」
俺は真美の言葉を理解して、つまらない質問したと後悔する。
「ごめん、真美!」
「いいの。それに、ひきこもり状態の私には無理よ」
テーブルの下で真美の手を握り、こっそり慰めた。
九時半過ぎに、トーマス小父さんの車がホテルに迎えに来た。荷物が無いので車内はゆったり。出発する前に、真美と打ち合わせをする。
「ママのお墓に行く前、ひとつ寄る所があるの」
「どこへ寄るの?」
明恵母さんが、真美に尋ねた。
「内緒だけど、お母さんには教えるわ」
真美が、耳元で囁く。明恵母さんは、目を見開き驚いたようだ。俺とオヤジさんは、黙って見るしかなかった。
「どうして、教えてくれないのさ」
俺が、不満な顔をする。
「行けば、分かるわよ。ねえ、お母さん!」
「ええ、そうね。喜ぶと思うわ。ふふ・・」
「さあ、トーマス小父さん。行きましょう」
ユニークな車は、街の郊外へ出た。のんびりした風景だ。
《英語が得意なら、こんな街に住みたいな・・》
「じゃ、しっかり英語を勉強したら。でも、洸輝には語学のセンスがないから、無理かもしれないわ」
その言葉に、反論できなかった。
「そうだね。日本の方が俺には合っているかも・・」
ショッピング・センターが見えて来た。
「洸輝、お父さん、着いたわよ」