ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅱ

「待って、紗理奈さん待って!」
《時間がないって、どうしてなんだろう?》
 私は後を追いかけた。岬の上に来たが、彼女の姿が見当たらない。古くこぢんまりしたお堂が建っているだけだ。反対側の道に降りた気配がない。
《これは、どういうことだ。確かにこの岬へ上がったはずだが・・》
 しかたなく、私は浜辺に戻った。約束の仕事があるので、昼食を済ませ東京へ帰ることにした。新幹線に乗っている間、彼女の様子を思い出してみた。しかし、何も答えが浮かばない。
《次の土曜日に、予定が無ければ来てみよう》
 残念なことに、仕事が忙しく行けなかった。次の土曜日、台風の影響で天候が悪く諦める。
 私は地図と地元の歴史書を手に入れ、何らかの知識を得ようと思った。神田の古本屋に行き、やっと入手して調べることができた。古書に奇妙な伝説が書かれているのを発見。
 それは、佐渡流罪を赦免された偉いお坊さんが、荒れ狂う日本海を必死に渡り新潟の海岸に着いた。その折に、小舟の船頭をした若い漁師が、海に落ちて溺れ死んだ。彼には美しい許婚がいた。お坊さんは、悲しむ彼女が後を追わないように、小高い岬にお堂を建て冥福を祈る。そして、お堂の中に冥府の扉を用意して、ふたりが再会できるようにした。
 ただし、約束事として一年に一度、初秋の一週間内に七時間だけ会える。約束を破れば冥府の扉は永遠に消えてしまう。
 数年ほど、その約束は守られ再会していた。だが、嫉妬した長者の倅が、お堂に火をつけ燃やした。悲観した許婚の女性は、岬から身を投げて死んでしまった。その後、お堂は新たに造られたが、冥府の扉は決して開くことはなかった。
 この古書を読み、私は非常に興味が湧いた。
《だが、紗理奈は誰?》
 ようやく暇な時間を見つけ、久々に新潟へ向かうことができた。今回は車で関越高速を走る。長岡から北陸へ向かい、途中の弥彦から日本海に着いた。長い時間であったが、逸る気持ちが一杯で余り苦痛を感じなかった。
 見晴らしの良い駐車場に車を停め、砂浜に下りた。海風が深まる秋の風に変わっている。波も荒々しく感じられた。
 私は小高い岬へ足を運び、古いお堂の前に立った。果たして、奇妙な伝説は本当だったのか。お堂の扉は、しっかり閉ざされている。
 伝説によれば、約束事は初秋の一週間だけである。すでに、季節は秋から冬に変わろうとしていた。真実を確認することができない。
《残念だが、来年まで待とう》
 帰る前に、お堂の前で手を合わせ祈る。その時、お堂の扉がガタガタと揺れ、か細い女性の声が聞こえてきた。私は自分の耳を疑う。お堂の扉に怖々と近づき、耳を澄ませる。
「今年は・・、もう・・、会えないの・・」
 確かに、紗理奈の声が聞こえた。

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