ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅣⅩⅡ 

「ご、ごめん。どうか、機嫌を直して・・」
 俺は手を合わせ、拝む仕草で謝る。何気なくバック・ミラーに目をやると、真美の目に遭遇。ミラーの位置を俺に合わせていたようだ。
「えっ! なんで?」
 俺は驚き、彼女の横顔に目を移した。その横顔は、前を見ながら笑いを堪えている。
「うふふ・・」
 俺のジャンプは無事に着地し、しっかりとテレマークができた。
「な~んだ。怒っていないんだ。良かった・・」
「いいえ、怒っているわ。洸輝の悲しむ様子を考え、楽しんでいるところよ」
《いや~、本当なんだ。参ったなぁ。どうすれば、機嫌が直るんだ。弱ったぞ》
「うふふ・・、オホホ・・。洸輝は面白い。ハハ・・」
 真美が急に笑い出した。
「何が面白いのさ・・」
 俺は、不機嫌になった。俺は体をずらし横に向ける。真美が笑いを止めると、殺伐なエンジン音だけがふたりの耳に聞こえた。ガラスに映る真美の姿。横顔に陰りが浮かび、俺の胸が痛みだした。
《ん~、何やってんだ俺は。真美の暗い顔・・。そんな顔、俺は見たくない》
「ウッ、ウ~ン」
 真美が軽い咳払いをした。
「ウッ、ゴホン」
 負けずに咳払いをして、俺は虚勢を張る。
「ウン!」
 真美が強く咳払い。
「ゴッ、ホン!」
 負けずに俺も返す。
 ふたりは数回も繰り返した。
《馬鹿らしい、俺はやらない。もう止めた・・》
 俺は元の位置に体を戻し、前方を見詰めながら真美の様子を窺う。すると、彼女がチラッと俺の目に合わせた。
「洸輝! これから観音山へ行こうかぁ?」
「えっ、なんでさぁ?」
「うん、観音様にお願いするの。私たちが、いつまでも仲良く過ごせるように・・」
「分かった。じゃぁ、直ぐに行こう」
 俺たちの争いは、何事も無く解消。エンジン音が軽やかに聞こえる。

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