謂れ無き存在 ⅢⅩⅧ
俺は裸の真美を、怖々と抱きしめる。
《これは幻ではない。本当に、現実なんだ・・。この温もり、真美の温もりが愛しい》
「ええ、幻想じゃないわ。漸く・・、独りの生活から抜け出せた。私は幸せよ・・」
「そうさ、これからは独りじゃない。それに、俺も自分の存在を認め、生きる意識が持てそうだ。真美のお陰だよ、ありがとう・・」
真美は軽いキッスをした。
「お腹が空いたでしょう? 朝食を用意するからね・・」
彼女は、恥じらいながら裸のまま浴室へ行く。俺はチッラと後ろ姿を眺めてしまった。
《俺は幸せ者だ。綺麗な姿だなぁ、真美の姿は・・》
「こらっ! 乙女の裸を、勝手に盗み見するな!」
振り向きキッと睨む。
「ワォ~、前の方がもっと素敵だ! ワッハハ・・」
顔を真っ赤にして、急いで浴室へ消える。シャワーの音と共に、彼女の明るい歌声が流れてきた。俺はしばらくベッドに横たわり、その歌声を楽しく聞いた。
「洸輝、出たわよ! 早く入って・・!」
俺は熱いシャワーを浴びる。
《あ~、気持ちがいいなあ~。それにしても、これが新しい俺の生活か。信じられない生活だ。明日になったら、夢が覚めて元の俺に戻る。冗談じゃないよ、俺は絶対に離さないからな》
浴室のガラス戸が、トントンと叩かれる。
「何?」
「安心して、私が洸輝を離さないから。バスケットに着替えを置いたからね」
「ああ、分かった。ありがとう・・」
浴室を出ると、真新しい下着と上下の普段着が用意されていた。厚手の紺色のシャツとジーンズ、俺は真美のセンスに驚かされる。
《俺の好みを、本当に良く知っている。何故だろう? 不思議だよなぁ》
「不思議なことなんて、有りませんよ~。あなたは運命の人、だから以心伝心で理解できるのよ~」
キッチンから大きな声。俺は降参しながら、キッチンを覗く。
「はい、はい、分かりました。ところで、いい匂いがするね。腹ペコだ・・」
「ホットケーキを焼いているから、もう直ぐよ。お湯が沸いているから、コーンスープの素にお湯を入れてね。お願い、ダーリン!」
「あっはは・・、ダーリンって俺のこと?」
「そうよ、何が可笑しいの?」
「だって、初めてだから・・。アハハ・・」
「ウフフ・・、私は奥さまですもの・・。さあ、出来たから食べましょう」