ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅢⅩⅡ 

「でもね、お母さん! 不思議なことに、これは急に感じたの。それも、洸輝だけよ」
 真美は俺の顔を見ながら、明恵母さんに打ち明ける。
「あら、そうなの・・。私も初めて主人に会ったとき、主人の心が読めたわ」
「えっ、嘘だろう? 本当かい?」
 オヤジさんが、素っ頓狂な声を上げた。
「うふふ・・、本当よ。でも、今では読めなくなったから、心配しないで」
「な~んだ。良かった」
「あら、読まれては困ることでも?」
「いやいや、隠すことは無いよ。アッハハ・・」
 オヤジさんは慌てて首を振り、笑いで誤魔化す。
「いいえ、怪しいわ。きっと有るのよ。ねえ~、真美!」
 真美は大きく頷き、明恵母さんと一緒にオヤジさんを睨む。
「ええ、私も思うわ。お母さん! 私も手伝うから、しっかり見張りましょうよ」
 ふたりの様子に、オヤジさんと俺は怖気づく。
「待って・・。洸輝、どうして怖がっているの?」
「な、何も・・。特に・・、別に怖がっていないよ」
 真美の指摘に、俺はしどろもどろの返事をした。
「ウフフ・・」
「オホホ・・」
 俺の様子を見た真美と明恵母さんが、愉快そうに笑いだした。同時にオヤジさんまで笑い出す。
「アッハハ・・」
「なんだよ。俺を笑い者にして・・」
 しばらくの間、笑いは止まらなかった。俺も笑う。心から味わえる温もりに、俺の五感が幸せを満喫する。
 食後の片づけをしてから、居間で過ごす。和やかな雰囲気だ。俺は真美の様子をこっそり窺う。
 元気な笑顔で話し続けているが、彼女の瞳が時々愁いを帯びる。俺は不安を感じた。俺の心に暗い影が忍び寄り、体がぶるっと震えた。真美が俺の目を捕らえ、首を傾げる。
「洸輝、私に不安を感じた? そうでしょう・・」
 俺は解釈できず答えようが無い。
「さあ、今晩は帰りましょう? 箕郷の家で話すわ。お母さん、後日説明するから・・。お父さん、いいでしょう?」
 明恵母さんとオヤジさんは、理解できぬまま頷いた。
「ええ、いいわ。私たちの生活は始まったばかり。急ぐ必要はないもの・・。ねえ、あなた」
「うん、そうだね」

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