謂れ無き存在 ⅡⅩⅦ
「真美、これは俺だけの問題じゃない。俺と一緒にやろう」
彼女は俺の気持ちを理解する。ふたりで他のロウソクを灯す。新しい家族四人は、灯されたロウソクを見詰めた。
「さあ、みんなで一緒に消してから、ケーキ―を食べましょう」
真美が音頭を取って、一斉に息を吹きかける。消えたロウソクから、四本の煙が立ちのぼり絡み合った。その様子を静かに見守る四人。大きく息を吸い其々の肺を満たしてから、ふ~っと吐き出す。
「頂き、ま~す」
「あっ、洸輝! 狡い」
俺と真美が競い合って食べ始めた。
「オホホ・・、まあ、そんなに慌てなくても・・。ホホ・・」
「本当だ、アッハハ・・」
四人は見詰め合い、笑った。
「お母さん! 分かったら、教えて・・」
真美がケーキーを三口ほど食べてから、思い出したらしく。
「何が知りたいの?」
「この歌だけど、“緑のそよ風、いい日だね。ちょうちょも・・”」
「あ~、懐かしいわ。それね、あなたのお祖母さんの時代、確か昭和23年頃に作られた童謡よ。でも、どうして?」
「ママが歌っていたと思うの。子守唄の様に・・」
「高校の校内合唱コンクールで歌ったの。特に、真美のお母さんが大好きで、いつも口ずさんでいたわ。あっ、そうだ。その時のアルバムが有るはずよ。持って来るから、ちょっと待ってね」
奥さんは急ぎ二階の部屋へ行く。しばらくして、バタバタと階段を下りてきた。
「ねっ、有ったでしょう。ほら、洸輝君のお母さんもいるわ」
俺は、心臓が飛び跳ねた。ドキドキしながら覗き込む。
「えっ、どれが母さん?」
「私はこれで、左が真美のお母さん。真ん中にいるのが、あなたのお母さんよ」
先生の奥さんは、直ぐに判明。真美の面影がある女学生は、優しく微笑んでいる。もうひとりは全く見覚えが無い。
《これが、俺の母親? 何の不自由も感じない女学生。その何年後かに、俺を捨てた女学生だ。愛しさより、怒りと虚しさを感じる》
俺の五官全てが嫌悪感で疼き、体中に耐え難い痛みが走る。俺は拳を強く握った。
「洸輝・・」
やはり、真美は俺の心を感じ、俺の腕を抱いた。奥さんも俺の表情に気付き、心配な顔を見せる。