ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅩⅧ 

 確かに真美の意見は、正しいと思う。余計な詮索は必要ない。
「そうだね。俺は愛に飢えていた時期もあった。でも、大人になるにつれ、愛に不信感を抱き、求めないことにした。だって、いくら求めても、結果的に虚しくなるだけだ」
「私も虚しく悲しい時間を過ごしたわ。誰も傍に居なくて、幸せを感じなかった。とても寂しかった・・」
 彼女を養育した人は約束を果たすだけで、家族の愛を教えなかった。だから、真美は愛の感情に飢え、懸命に求めている。俺は、幸いにも施設の仲間から、愛に似た感情を教わった。
 施設を離れ生活を始めると、多くの愛らしきものを見せ付けられる。俺は孤独感を味わい、空虚な生活の中に愛の破片すら探せなかった。
「俺には、愛と言う感情は縁のないもの。もし、愛を得られたとしても、掴んだ途端に壊れると思い、一時も心が休まらない。それが怖いんだ」
「・・・」
「だから・・。今の俺は、真美の気持ちを十分に理解しているが、君を失った時の自分に恐れているんだ」
「私だって、あなたを失いたくない」
 隣に寝ている真美の手を、俺は握りしめる。
「俺は、そんな生活を望んでいない。明日まで、待てるかな?」
「えっ、何を?」
 真美が訝る。俺は狼狽えた。
「何をって、決まっているじゃないか。あれだよ」
 俺は若い女性を前にして、露骨な言葉が言えなかった。
「はは~ん、セックスのことね?」
 真美がいとも簡単に答えたので、心臓が飛び跳ねる。
「まあ、簡単に言えば・・」
「ふふ・・、洸輝は純なのね。今はね、隠す言葉じゃないわ。驚く必要はないの」
 俺はなんと古い感覚の人間なんだ。テレビや雑誌では当たり前の言葉だ。
「俺もバカだね。常識だよね・・」
「そうよ、恥ずかしいことじゃないもの。でも、洸輝を見ながら言わせるなんて・・」
「あっ、ごめん。俺が意気地なしだから、言葉に表せなかった」
「もう、いいわよ。私は理解していますから・・」
 真美が俺の方へ向き直り、片手を俺の胸に置いた。その手の上に、俺は優しく手を重ねる。彼女は、俺の耳に囁く。
「でも、私を独りにしないでね。今夜は、あなたに抱かれて眠りたいの」
「うん、俺も思っているよ」
「良かった。やっと安心して眠れる。ずっと、この日を待っていたわ」
 しばらくして、真美は静かな寝息を吐く。彼女の安らかな寝顔に、俺は幸せを感じた。この幸せが、愛と言う感情なのだろう。俺は、心の中で確信した。

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