ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅩⅦ 

 秋の夜は冷える。真美に上掛け布団を掛け、俺も横になった。真美が甘えるように寄り添う。芳しい香りが俺の肺を満たす。
「明日、先生に何を聞くつもりだい?」
「うん、夢のこと・・。できれば、夢に現れる人が誰なのか、知りたいの」
 間近で話す真美の息が、俺の顔に温かく触れる。果たして、俺の息は大丈夫だろうか。心配になった。俺は横を向いて、手のひらに息を吹きかけ確かめる。
「洸輝、何してるの?」
「うん、真美の息は爽やかだけど、俺の吐く息が臭くないか心配だ」
「どこ、どこ・・。あっ、臭い!」
 俺は反射的に顔を背けた。
「ほ、本当に臭いのか? 参ったな~ぁ。虫歯のせいで臭うのかな」
「嘘よ、臭わないわ。だから、安心して・・」
 俺の頭を抱え、真美の方へ向かせる。真美の瞳が、俺の瞳を間近に覗き込む。柔らかい真美の唇が俺の唇に触れながら、先ほどの俺が話したことを詰問する。
「どうして、私を突き放すの? 本当は、私のことが嫌いなんでしょう?」
《近い・・、近すぎるよ・・》
「・・・」
「答えられないの? やっぱりね・・」
「いや、嫌いじゃないよ。ただ・・」
「ただ・・? 何が、ただ・・、なの?」
 俺は彼女の唇を気にしながら、誤解されない話し方を選んだ。
「俺は本当の愛情を知らない。愛することの意味が、理解できない。家族愛、兄弟愛、母性愛、師弟愛、郷土愛、色々ある。好き嫌いの恋とは違う。真美は、理解できるかい? 生まれて最初の愛は、母親から感じるはずだ。でも、俺や真美は覚えていない」
 俺は、真美の顔から離れ、天井を仰ぐ。真美も従った。ふたりの視線は天井を見上げ、其々に過去の記憶を思い描いた。俺には、愛を感じる記憶はゼロに近い。
 多くの人が、この言葉を使う。確かに普遍的な言葉だと思う。愛と恋は同じような感情だ。だけど、家族を、兄弟を、師を恋するなんて言わない。恋すれば、愛を語る。
「あ~、もう変になる。俺は、真美が好きだ。これが恋だろう」
「当たり前でしょう。私も洸輝が好きよ。愛しているわ」
「それなんだよ。好きだから、愛する。好きという感情は理解できるが、好きから愛に結びつかないんだ」
「まあ、面白いこと。別に困ることないでしょう。恋は限られた対象に、感情が動くものよ。そして、互いに認め合えば、愛に発展する。簡単な考えでしょう」
「まあ、そう考えれば悩むことじゃないね。でも、それは男女の仲だけだよ。他の愛には当てはまらない」
「いいの。私たちは、男女の愛だけ考えればいいのよ。屁理屈を言わないの」

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