ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅩⅢ 

「今、連絡してみたら、早い方がいいわよ」
「そうだね、電話してみるか」
 携帯を取り出し、渡されたメモの番号に掛ける。
「もしもし・・」
「いつ電話してくるかと、待っていましたよ」
 俺からの電話が、必ず掛かって来ると分かっていたようだ。
「あっ、はい・・」
「ところで、傍に居るのは真美さんでしょう?」
「えっ? ど、どうして・・」
 講師が、俺たちのことを知っている。俺は驚いた。真美も俺の体に寄り添い、携帯に耳をそばだて聞いていた。ふたりは目を見合わせる。
「そりゃあ、分かりますよ。彼女は、早くからあの席に座って、ソワソワしていました。あなたが座ると顔を赤らめ、セミナー中は目を離さない。私は直ぐに、ふたりは妙な関係になると察知しましたからね」
「そうですか・・。先生は運命の人を信じますか?」
「はい、もちろん信じます。あなたたちが、正に運命の人ですから・・」
 俺は決心した。
「先生、明日の予定は有りますか? もし良ければ、お伺いしたいのですが・・」
「ええ、構いませんよ。お待ちしています」
 明日の午前中に、訪問することになった。家は護国神社の手前を左折すれば、直ぐに分るという。
 俺は帰りの支度をする。
「洸輝、何しているの?」
「うん、帰るつもりだけど・・」
「私は、街中のアパートに、帰らないわ」
「えっ、君の車で送ってもらえると、思ったのに・・。じゃあ、何で帰ればいいんだ」
 真美は、俯いたまま黙っている。俺は大きく息を吸い、静かに吐いた。ふたりの耳に、庭の風の音がはっきり聞こえた。
「今日は、帰らないで・・。泊まって・・、ねっ、お願いよ」
 俺の心は揺れ動く。軽い脳みそは、泊まることを強く望む。
「ん~、どうしよう。君が送らなければ、帰る手立ては無いものなぁ~」
「そうよ、帰れないわ。明日の朝、先生の家に行くんでしょう? ここから、一緒に行けばいいのよ」
 俺は真美の策略に、まんまと嵌められた感じだ。
「仕方ない、泊まるよ」
 真美は急に明るくなり、紅茶の用意を始める。俺はテレビの前のソファに座った。彼女が懐かしい歌を口ずさむ。
「緑のそよ風~、ふふふ・・、蝶ちょもヒラヒラ~、ららら~」
「随分、懐かしい歌だね。誰に教わったの?」

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