嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅦ
「そ、そんな寂しいことを、言わないでください。独りぼっちでは悲しくて、何もできません」
《お前との別れが、これほど辛く悲しいと思わなかった。命が尽きるまで、お前を忘れない。あ~、息子よ》
翌日の昼。アフリカ大陸の最南端、喜望峰が近づいて来た。
「黒ピカよ、ここでさらばだな」
ヤツが、急に真剣な眼差しに変わった。
「う~ん。やっぱり、リーダーと飛行機で帰ります。こ、怖いけど頑張る・・」
「そうか、そうだな。一度でも経験すれば、次は簡単だ」
テーブル・マウンテンが鮮明に現れた。港に接岸すると、荷物の隅に隠れ陸地に降りる。
「黒ピカ! しっかりワシに従え・・」
「はい、リーダー。でも、空港までの道は、知っているのですか?」
「分からん! この国は初めてだからな。だが、ミスター・ブリジョンソンから、道順を教えてもらった。だから、安心しろ。たぶん、平気だと思う」
「えっ、思う? またかぁ~、信用できないよぅ~」
貨物トラックに乗って、市の中心へ向かう。バス・ターミナルで空港行きのバスを探すが、あまりウロウロすると危険だ。目印は旅行者のキャリー・バックが、まとめて置かれたバスである。
幸いにも、ミスターの指示通りに動き、空港へ無事に行き着くことができた。問題は、どの便が日本へ向かうのかを、探さなければならない。ワシはヤツに、重要なことを伝授する。
「ワシらには、不思議な能力が備わっている。犬の嗅覚は鋭いが、ワシらより劣る。日本人の荷物を触角で探し当てることだ。さあ、黒ピカよ! 探してみるがよい」
何故と問われても困るが、これは感覚だ。
《恐らく、ヤツは悩むだろう。最初は簡単ではない。ワシも苦労したからな》
「リーダー、これが日本人の荷物です」
《えっ? ぜんぜん悩まないで、即決で探した? さすがにワシの息子だ》
意外にもスムーズに、サウス・アフリカ航空の便に乗ることができた。インド洋のモルディブ経由で成田国際空港へ向かう。
「これから飛び立つが、数分だけ我慢しろ。慣れたら、心配ない」
初めて経験する黒ピカは、ガタガタと震えている。歩くにも往生している様子。
「うう・・、ぶるぶる・・、な、な、何が慣れれば・・」
『ゴオー、ゴオー、キィーン』
ジェット・エンジンが大きく回転を始めた。
「ぐわぁ~、わぉ、わぉ、リ~ダ~ァ~・・」
「さ、騒ぐな! まだ飛んでいない。葉のヨットを思いだせ。最初は怖がっていたが、直ぐに慣れたではないか」
「は、は、葉のヨットは~、ほ、吠えま~シェ~ン・・」