嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅥ
「それはない、ワシらは貨物室に乗るからだ」
「え~、飢え死にしちゃいますよ。それなら、や~めた」
「じゃあ、ワシは飛行機で帰る。お前は船で帰ればいい。どうせお前は、横浜へ行く必要があるからな。ワシは一刻も早く、ゴキ江を助けねばならぬ」
「ん~、ん~、船か~、オイラもハム食べたいなぁ~」
「まだ時間がある。お前なりに考えればいい」
「はい、リーダー・・」
平穏な数日が過ぎた。そろそろケープタウン港に着くころだ。海を眺めていると、ヤツがやって来た。
「ねえ、リーダー。空に浮かぶあの雲は、どこから来て、どこへ行くのですか?」
「ん・・、どうしてだ?」
「オイラは生まれてから、こんなに空を見ることは無かった。そしたら、空の雲が気になって、オイラの頭の中は雲だらけです」
「そうか、雲か~? ワシは雲を見るのが好きだ。空を自由自在に流れ、好きな形に変えられる。ワシらと違って誰からも好かれ、羨ましく思っている。これは、ワシが作った詩だ。これをお前に・・」
【雲よ 雲よ 彷徨う雲よ やがて影と無の中へ 沈みゆく
久遠の理想に 静麗を求め 独自の境地を悟る 古老のように
清風に煽られ ただ 彷徨う
雲よ 雲よ 彷徨う雲よ やがて影と無の中へ 沈みゆく
人知れず 空疎な日々流れ 生の悲哀に感懐する 若人のように
無常の風に漂い ただ 彷徨う
「この詩をオイラに・・」
「そう、我がム・・、お前にだ! いずれ、別れがやって来る。これは、お前に残す、ワシの最後の言葉と思ってくれ」
「それは無理でしょう。なんせ・・、オイラには脳が有りませんから・・」
黒ピカは、ほんの少し声を詰まらせた。
「お前は不思議なヤツだ。この詩は、ワシとお前のことだ」
「リーダー、オイラは風が吹くまま、感じて生きているだけ・・」
「それだよ、風が吹くまま感じて生きている。まさに、お前は彷徨う雲だ。お前の能力は優れている。やや、おっちょこちょいだけど・・」
「えっ、何、それ、やや・・、なんですか?」
「それは、落ち着きがなく、考えの浅いことだ」
その答えに、パッと目が輝く。
「そうでしょう。だから、オイラには無理なんです」
「とにかく、お前には果たす使命がある。ハワイのゴキジョージと共に、仲間の将来を頼む。ワシの最後の願いだ・・」