嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅤ
船は大西洋の大海原を渡り、一路アフリカ大陸の南端を目指す。海は荒れることなく、穏やかな後悔であった。
《この船も貨物船だから、人間どもの姿が少ない。周りを気にせずに過ごせそうだ。だが、用心しよう。あの光景は、もうごめんだ。ん? ヤツはどこへ?》
探しに行くと、やはりキッチンにいた。ワシのことなど眼中にない様子。ヤツは、がむしゃらに食べていた。
『キュウ~、グルグル』
ワシの胃と腸が泣き叫び、猛烈に食べ物を欲しがる。黒ピカを横へ押しのけ、無我夢中で食らいついた。
「な、な、なんですか? び、びっくりしたなあ~」
「むう、むう・・、もぐもぐ・・」
「に、人間が来ますよ。リーダー、早く!」
『うっ、うぐっ・・』
ワシは喉を詰まらせ、気を失いかけた。
「リーダー、ご、ごめんなさい。ウソです。誰も来ません」
『フウー、ハー、フウー、ハーァ』
大きく深呼吸してから、黒ピカを睨みつける。
「はあ~、本当に死ぬかと思った。おい、急に驚かすな!」
「だって、オイラの邪魔をするからですよ。だから、つい・・」
「まあな、ワシが悪かった。お前の食べる姿に、胃と腸が辛抱できなかったのだ」
その後、ゆっくりと仮の棲み処を探す。キッチンの冷蔵庫の裏は、カビ臭く壊れかけのモーターでうるさい。これでは人間どもが現れても、直ぐに察知できない。別な場所を探すことにした。デッキの出口に、小さな穴を見つけて仮の棲み処ににする。
「リーダー、どうして帰りも船に・・? もしかして、オイラのためですか?」
「いいや、サン・パウロ国際空港がサントスから遠く離れ、交通手段が分からなかったからだ。予定では、ケープ・タウン国際空港から飛行機に乗る。そして、ドバイかモルディブ経由で日本に帰ることにした」
「えっ! やっぱり・・、あの恐ろしい飛行機に乗るのですか? 絶対に嫌ですよ、オイラは・・」
「お前は、意外に小心ものだな。飛行機なら早く日本へ帰れるぞ。お前は、ハワイへ行きたいのだろう? 船なら一週間だが、飛行機なら七時間で、簡単に行ける」
黒ピカは半信半疑で聞く。時間の短縮に興味が湧いたようだ。
「本当ですか? それは魅力だ。簡単に往復できますね。これなら、ゴキジョージと楽しく天国を楽しめる。美味しい樹液やグディな食事をしながら、魅力的なフラダンスで満喫できるなぁ~。ぐっふふ・・」
「まあな・・」
「飛行機なら、さぞかし豪華な食事でしょうね?」
また意味不明な解釈をする黒ピカに、ワシは呆れかえる。ヤツの的外れな話を聞いていたら、身が持たない。