嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅣ
「私が話すわ。実は、ブリ―リアに子供ができるの」
黒ピカの代わりに、マリアブリータが説明した。
「なにぃ~、それは・・、お前の子供か?」
「はい、オイラの子供です。そう言われました。でも、ひとりで育てるから、オイラは日本へ帰れと・・」
「いや、お前は残れ! 彼女に、もしものことがあったら、誰が子供たちを育てるのだ。ワシはひとりで帰る」
「ウーッ、困ったな~。育てる自信はありません」
「無責任なことを言うな! ワシと同じことを・・。う、いや・・」
「な、なんですか? リーダー!」
「いや、なんでもない」
マリアブリータが中に入って、二匹の争いを止める。
「いいえ、彼女ひとりではないわ。ここの仲間全員で育てることにしたの。ブリ―リアはクロピーカの子供たちを育てることで、幸せを得たと喜んでいるわ」
「そうか、分かった。ブリ―リアには、感謝の気持ちと体を大事に労ること、宜しく伝えて欲しい」
「セニョーラ、このまま立ち去りますが、オイラの子供たちをお願いします。チャンスを作って、必ず会いに来ます」
「では、アディオース(さようなら) マリアブリータ!」
「いいえ、アディオースは永遠の別れに使います。私たちは、永遠の別れではありません。チャオ、チャオです」
「そうか、チャオ、チャオだ」
「じゃあ、オイラもチャオ、チャオ! みんな、チャオ、チャオ」
「ご無事に帰国されることを願っています。私の愛する仲間ゴキータとセウ・フィーリョ(あなたの息子)にバイ・コン・デウス(神のご加護を)」
ワシは、再度ハグしながら囁いた。
「お見通しでしたか。黒ピカは最初の妻の子です。ヤツは無責任な父親が、家族を見殺しにしたと思っている。ワシは、遠くから見守っていました。
今回の旅には、最初から黒ピカと決めていました。親として、最初で最後の勤めかなと思ってだが・・。ブリ―リアの子供たちが成長したら、黒ピカが誇れる父親であることを話してください。どうか、お願いする」
もう一度、力を込めてギュッとマリアブリータを抱きしめる。彼女はか細い声を上げながら、小さく頷いた。
「もちろんよ。そして、その父親も誇れると伝えるわ・・。あ~ぁ、ゴキータ・・」
サントス港には、ブラジルの仲間がケープタウン行きの貨物船まで、案内してくれた。
「黒ピカよ、いよいよ日本に帰れるぞ。また、長い旅が始まる。退屈だが、辛抱しろよ。大丈夫か?」
「はい、平気です」