嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅡ
「私と一緒に暮らすそうよ。これで、私も残りの生活を楽しく生きて行けるわ。ねえ、ブリ―リア! 共同生活する仲間を探しましょう」
ワシは、安心したら無性に食べたくなった。
「さあ、黒ピカ! たらふく食べるか?」
「はい、食べましょう、食べましょう」
二匹の大食い競争が始まった。
「おほほ・・、うふふ・・。面白いこと。ねえ、ブリ―リア、そう思わない?」
「ふふ・・。ええ、でも・・、彼と別れるのが辛い。日本へ帰らないで、クロピーカ!」
「ん? ブリ―リア・・、ゴメンな。オイラには、やることが一杯あるんだ。まず、人間のことを勉強し、仲間を助けることだ。次は、マダムとの約束やゴキジョージのハワイへ行く。あと、なんだ。う~ん、あれ? とにかく山ほどある。オイラもブリ―リアが大好きだよ」
黒ピカの話を聞いて、ついワシの口が滑る。
「ワシも辛い。マリアブリータが好きだ。気が狂いそうだ。でも、ゴキ江の所に戻りたい。ハムレットの心境だ。残るべきか、別れるべきか、どちらを選べば良い。それが疑問である。ああ~、分からない・・」
「え~、ハム? 迷うことないよ。リーダー、美味しい方を早く食べることです。もったいない」
マリアブリータが泣き出した。ワシは、慌てる。ブリ―リアがハグして慰める。黒ピカだけが、蚊帳の外。
「ありがとう、ブリ―リア。悲しくて泣いている訳ではないの。ゴキータの気持ちが分かったから・・。ハムレットの心境だなんて、私はどうすればいいの」
「ごめん、ごめんな。つい口に出して・・」
「いいえ、あなたに会えただけでも、私は幸せよ。別れも神様からの試練と思っているわ。ここは、カトリックの国ブラジルよ。神様は全ての生き物の創造主、人間だけの神様ではないと思う。間違った考えかしら?」
「いや、ワシも同意見だ」
「そう、それなら良かった。素敵なあなたに恋をして、大きいけれど可愛い妹を手に入れたわ」
「あれ、オイラは?」
「もちろん、逞しい弟も。とてもハッピー(幸せ)だわ」
「えっ、オイラが法被ですか? そんなにおめでたい弟ですか?」
マリアブリータが、黒ピカの反応に首を傾げる。
「またか~、お前は本当に耳が悪いのか、それとも脳が足らないのか分からん」
「は~い、脳がありましぇ~ん!」
黒ピカの仕草が可笑しく、沈みがちな雰囲気が和やかになった。
その後、二日が三日、一週間と過ぎて行く。