嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅨ
「どう思われますか? 過去の大会では、ここまで活発な意見はなかった。あなたの演説が、仲間の啓発を強く高めたようです」
「少し待ってくれ、講演の内容を冷静に考えていたんだが・・。どうも、仲間に夢を与えたのではなく、残念ながら幻想を与えたようだ。ワシら仲間にできるものは、何も無い。それが現実だ」
マリアブリータは、ワシの言葉を信じられない様子だった。
「そ、そんな! 私たちには、夢も希望も持てないの?」
「いや、考え方だ。夢はたくさん見ることができる。希望も持てると思う。ワシらが平穏な生活を欲することが希望だから、決して諦めてはいけない」
「分かったわ。きちんと仲間に説明してちょうだい。さあ、セニョール! 壇上に行きましょう」
「は~い、皆さん! 分科会で話された内容をセニョール・ゴキータが、お答えします」
「あ~、なんだな~。う~んと」
頭の中では理解しているが、言葉が出てこない。
「大丈夫ですか、セニョール?」
「あっ・・、あ、ありがとう。心配ご無用」
マリアブリータが心配して、水を差しだす。ワシはひと舐めしてから、前を向く。
「やあ、ゴメン、ゴメン。つい言葉を忘れてしまった。どうしたことだ?」
シーンとしていた会場が、ドッと笑いの渦に巻き込まれた。
「キャハハ・・」
「ワッハハ・・。本当に平気か? 認知症では・・?」
「オホホ・・。お腹が痛いわ。ほほ・・」
「まあ、まあ、問題ない。確かに物を忘れることが・・」
ワシはマリアブリータに合図して、安心させる。彼女は頷く。
「さて、皆に謝ることがある。夢には可能と不可能がある。ワシが伝えた夢は、不可能に近い幻想を与えてしまった。分科会でまとまった内容には、過激的な発言があった。それこそ、幻想です」
その内容をまとめたグループが、怒りの声を上げる。
「なにが、過激的な内容だ! 夢でなく現実にやれることだ」
「そうだ、そうだ、可能だ!」
「ああ、君たちの気持ちは理解する。以前には、ワシも同じことを考えた。人間どもを苦しめることや襲撃することだ。ずいぶん考えたが、ワシらの力では限界があり、とても人間どもには勝てない。残念ではあるが、それが真実だ・・」
「じゃあ、どんな方法があるというのだ!」
「私たちに、生き残れる道は無いというの。そんな悲しいことを言わないで・・」
ワシは、会場の話を黙って聞く。刺激しない言葉を考えていた。マリアブリータが黒ピカらの仲間と一緒に、祈る気持ちでワシを見ている。