嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅥ
「さて、どこまで話をしたか、忘れてしまった。直ぐに思い出すから・・」
「がんばれ~、だいじょうぶか~?」
「おれが代わりに話そうか? アッハハ・・」
「うふふ・・、私でもいいわよ」
「あっ、そうだ。神や仏の話だったな。信じる者は救われるか・・。まあ、いいや」
少し間をおき、ゆっくりと会場を見渡してから話し始めた。
「もし、人間どもが地球から逃げるのであれば、ワシらも考える必要がある。三億年の命の継承を、地球と共に終わらせる訳にはいかない。ただ、ワシらには宇宙へ行く知恵や技術がない。
旧約聖書(創世記)に、選ばれしものだけがノアの方舟に乗れ、未曽有の大洪水から救われたと書かれてある。しかし、選ばれしものにワシらの名前は無い。ワシらの生命力を信じていたのか、単に嫌われたのか分からないが、選ばれなかったのは事実である。
確かに、ワシら種族の生命力は、幾多の生命絶滅から逃れている。この三億年の間、中央大西洋マグマ、古生代ベルーム紀末の地球史上最大の大量滅亡(生物の約九十~九十五%)、白亜紀の隕石衝突(恐竜や三葉虫など約七十%が滅ぶ)、氷河期でもワシら種族は生き延びた。
奇妙な話だが、人間どもは自分らが滅亡しても、その後は、蟻かワシらの種族が地球を支配すると信じているようだ。へそが茶を沸かすより滑稽な話だ・・」
会場の参加者全員が、物音立てずに聞き入っている。
《おお~、嬉しくて心が舞い上がりそうだ》
黒ピカの呆然とする顔に、ワシの心は舞い上がらず低空飛行へ移った。
《う~む・・》
「さて、地球を脱出する未来の方舟に、ワシらは絶対に選考されないと思う。従って、その方舟に乗船する方法を、考えておく必要があるだろう」
ワシはマリアブリータに目礼し、壇上から下りる。
「では、ここで一旦休憩に入ります。休憩後に分科会を行ないますが、どのグループを選ぶかは個々の自由です。ただし、できる限り同一言語に集まって下さい」
ワシは黒ピカの感想を聞きたかった。
「よっ、黒ピカ! 理解できたかな?」
「いいえ、理解できません。でも、感じました。嫌われても、嫌われようが、生きて次の世代へ繋げることですよね」
「そうだ。生きて、生きて、生き抜くことだ。仲間の命を殺めることは許さん。自らの命も軽んじてはいかん。理屈なんて理解できなくても、感じることが大切だ」
《ワシは黒ピカを信じ、仲間の未来はヤツに託そう。よし、心から決めたぞ》
急に黒ピカをハグしたくなった。体を寄せると、サッと逃げた。
「なぜ、逃げる。ワシの気持ちが分からんのか?」
「分かりませんよ。でも、ゴキ江さんなら喜んでハグします」
「許せん! それだけは、お前でも許せんぞ!」
黒ピカは笑いながら逃げる。ワシは必死に追いかけた。