嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅣ
会場全体がシーンと静まり、ワシの言葉を待った。
「世界中から参加した皆さん! ワシらは三億年前の古生代石灰紀の地球上に誕生し、氷河期や隕石落下など多くの危機や試練を乗り越え、種族の命を受け継いできました。
森林環境に依存し平和に暮らして来たが、人間どもの出現によって、ワシらの生活環境が一変した」
通訳のために一息入れる。会場は、通訳の言葉に耳を傾けた。
「特に、この一世紀の間、人間どもの文明は著しく発展し、地球の温暖化を急激に進めている。それは過去に類を見ない環境破壊である。
ワシらの生活に混乱を招いた。先ほどのボツワナ代表が報告したとおりだ。地球上のあらゆる生き物が絶滅に追いやられている。もちろん、ワシらの種族にも関係していることだが・・」
黒ピカが、ゴキジョージと共にワシの演説を真剣に聞いていた。
《お、聞いている、心を奪われ真剣に聞いている。待てよ、理解できているのかな》
会場は物音もせず、触角だけがユラユラと左右に揺れている。
「森林や草原から追い出され、人間どもの場に暮らしを求めた一%の仲間は、形態や動作だけで不快に思われ嫌われている」
静寂の会場が『ワオー!』と憤りの叫び。それはワシの心に響き、気持ちをより高ぶらせてしまった。
「人間どもの社会では、貧困や人種などに誤った価値観を持つ一握りの利己主義者が、相手の大切なものを無理やりに奪い取る。さらに、人間同士がバカな殺戮を繰り返しているのだ。この地球上において、人間どもほど非道で危険な生き物はいない。
ワシらには、決して理解できないことだ」
会場の参加者全員が、ワシの言葉に賛同して翅を擦る。ワシは叫び過ぎて、喉が乾いてしまった。用意された水を一口舐めて潤す。
「八十年前、ある種の凶悪な人間どもが、価値観だけの違いで、同じ人間を毒ガスや化学薬品で大量に殺害した。ワシはヨーロッパの仲間から聞いて驚いてしまった。ワシらが同様なやり方で、殺害されているからだ」
ワシは、ゆっくりと会場を見渡した。会場は次の言葉を待っている。
「今から話すことは、絶対に許してはいけない。一部の人間どものが、決して許されない悪魔の申し子と言われる原爆を持ちたがっている。これは非常に恐ろしく、ワシらの地球を破滅させてしまう。
実際に、地球史上初めて、ワシの住む日本に投下された。それも、二か所だ。幼い人間の子供を含め何十万という犠牲者が一瞬に出たという。
断じて許せないのは、人間同士の争いに人間以外の生き物が、意味もなく無差別に殺害されたことだ。ワシらの仲間が、どれほど殺害されただろうか」
会場から悲痛な声が上がる。
「しかし、非常に残念なことだが・・、この地球上には、人間より賢い生き物はいない」
ブーイングと失望のため息が会場を埋める。