嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅡ
「あっ、あれは口からの出任せです」
「ほ、本当か? ワシは知らんぞ。あの豊満なメスの怖さ・・。あ~ぁ、おぞましいことが起こりそうだ」
ワシは鳥肌が立つ。この旅は、何故か鳥肌が立つことばかりだ。
「なんですか、マダムとの約束とは?」
ゴキジョージが不思議な顔で聞き、触角をピィーンとアンテナのように立てる。
「いや、ここへ来る前に出会った、横浜のマダム・イヤーネのことさ。渡航する船を教えてもらうために、交換条件で、オイラが下働きになる約束をしたんだ。嘘も方便だよ」
「でもな、年をとったメスは軽く考えるな、特に豊満なメスは・・。若いオスにギラギラと目を輝かせ、ジッと見るときは危険だ。心配だなぁ~」
ゴキジョージが心配して、黒ピカをハグする。ワシも甘く考えていたが、やはり相手は名立たる横浜のマダム。黒ピカが心配だ。
「そうだよ、黒ピカ。とっさの判断は素晴らしかったが、慎重に考えた方が良さそうだ」
「そうか~。じゃあ、マダムに許可を得てから、ハワイへ遊びに行くよ」
「オッケイ、楽しみに待っているからな」
壇上では、オーストラリア代表が報告している。この次が、ワシの番であった。
「次は、リーダーですね。準備は?」
「話すことは、全て頭の中に叩き込んである。安心しろ」
「やはり、リーダーを尊敬します。オイラの脳は小さく叩き込めないから・・」
一旦、休憩になる。船の仲間が黒ピカを中心に集まり、賑やかなグループになった。マリアブリータが、ワシの傍に寄って来た。
「若いって、羨ましいですね。セニョール?」
「ええ、そうですね。言葉なんて関係ない。しかし、いいよな!」
ワシは黒ピカを見詰め、羨ましく感じた。
「何が、ですか?」
「うん、若いときに戻り、あの輪の中に入りたい」
「何をおっしゃいますか、セニョールは十分に若いですよ」
ワシは驚き、マリアブリータの顔を直視した。
「とんでもない! セニョーラ、あなたほどではありません。ワッハハ・・」
今度は、マリアブリータが驚き、顔を赤らめた。
「あっらま、お世辞がお上手ですこと。セニョール、オホホ・・」
細く長い触角で、ワシをポンポンと叩く。
「ところで、セニョーラは日本語が達者ですね。どこで習ったのですか?」
「はい、私の棲み処は、日本から移住した人間の家です。そこで覚えました。でも、残飯には困っています」
「どうしてですか?」
「日本の食べ物。納豆? それにタクワン? あれには慣れませんわ」
「アッハハ・・、慣れませんか? ワシのチ―ズ嫌いと同じですね。あれはダメだ!」