嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩ
「リーダー、残念ですね。船内で話をした仲間もいたでしょうね」
《ほう、もう冷静になっておる。うふふ・・、少しは成長したと思ってもいいのかな》
「そうだな、残念だが仕方ない。これが、無常の風よ」
「それは、なんの風ですか?」
ヤツは、次の疑問に心を惹かれ、目を輝かした。
「この世の命は、誕生と死滅の法則があり、それは永遠に変わらない。風が吹いて花を散らすように、無常の風がこの世に生きるもの、全ての命を奪い去る。そんな意味だよ」
「ふ~ん。そういうことか。花ね~ぇ、花も死ぬんだ」
「勿論、この地球上にはワシらだけでなく、人間や動植物など数知れない生き物が住んでいる」
「じゃあ、動くもの、だけではないのですね」
ワシは話しながら、嫌な予感がしてきた。
「そうだ、目に見えないものもいる」
「え~、見えないもの?」
やはり、キョロキョロと見まわす。
「キョロキョロするな! 透明ではない。余りにも小さく見えないことだ。ただ、人間どもの電子顕微鏡なら可能だ。例えば、ジカ熱のウイルスがそうだ」
《分かり易く説明したが、成長していないらしい。思ったワシが悪かった・・》
「とにかくだ。生まれたからには、必ず死を迎える。だからこそ、たった一度の命を大切にして、粗末な扱いをしてはいかん」
本来ならば、この大会には、およそ八十ヵ国の仲間が参加する予定であった。ジカ熱のために、出席を断念したという。しかし、三十の国や地域代表が、二百匹ほど参加していた。
「本大会に、ご参加いただき感謝申し上げます。これより、大航海時代から受け継がれている世界大会を開催します」
セニョール・ゴキペドロ大会委員長が、雑な木箱の壇上で開会宣言を行なった。
「ワ~ッ、いいぞ! われらの仲間、世界の仲間。バンザイ!」
「ワイワイ、ヒューヒュー、ガサガサ」
「世界本部の南アフリカ代表ミスター・ブリジョンソンを、ご紹介します」
紹介されたブリジョンソンが、ゆっくりと壇上に上がる。
「我が友よ、我が仲間よ。良く無事に、ブラジルへ来られた。今回、多くの犠牲者を出してしまった。非常に残念なことです。皆さん、黙とうを捧げたいので、ご協力をお願いする。では、黙とう!」
会場は静寂に包まれた。時折、すすり泣く声が聞こえる。ワシがゾクゾクと体を震わせた。すると、黒ピカがワシの心情を素早く察したようだ。
「リーダーもですか? オイラも辛い・・」
「そうだ、目の前で多くの仲間を失ったのは、初めての経験だからな。黒ピカよ、仲間のためにも、決して忘れてはいかん」