嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅦ
「大丈夫ですよ。あれらは体調が百十ミリで翅を広げると二百ミリになりますが、敵対心が無ければ友好的ですよ。あれらも人間を恐れています。ペットの食料用に捕獲されているので・・」
「ブリ―リアと同じだ! 可哀そうに・・。誰も信用できない目つきは当たり前だ。リーダー、そう思いませんか? オイラは必ず友達になって、安心してもらうよ」
《ため息が出るほど、お前の心は純真だなぁ。でも、心が成長しているのに、頭の中が成長しない。何故だ。不思議なヤツだ》
「それも、生きたままだよ。クロピーカ、考えただけでもゾッとするね」
「オイラだったら、食べられる前に咬みついてやる。オイラにも虫の意地があるからね。そうでしょう、リーダー?」
「そうだ、お前の言うとおりだ。弱いものいじめは卑劣な人間どもがやることだ。ワシも絶対に許さんぞ」
リオ・デ・ジャネイロまで数日。サンバの発祥地サルバドール港の沖合を通過するときに、またしても事件は起きてしまった。
駆除は夕食後に実施され、三時間ほどで終わった。ワシらのグループは早めに計画を察したので、人間どもを欺き食料庫の奥にジッと隠れていた。食料庫には、有害な殺虫剤を使用しないと考えたからである。
「リーダー、もうここから出ましょうよ」
「いや、もう少し待ってからでいい。人間どもが寝るのを待とう。今回は薫霧式を使っているから、しばらく時間が必要だ」
「薫霧式?」
ブリ―リアが不思議そうに聞いた。
「ああ、薫霧式は広範囲に隅々まで、煙でいぶす殺虫剤が襲ってくるタイプだ。いずれにしても、ワシらには厄介なものさ」
「そうだよ、息ができなくて苦しむ煙だ。あっ、あ~、くっ、苦しい~」
黒ピカが、ドタバタと苦しむ真似をする。それも大げさなジェスチャーだった。その格好が愉快だったので、ガサコソと音を出してしまった。
「しっ、静かに!」
乗組員がパッと食料庫のドアを開け、中をキョロキョロと覗く。問題無いと分かり、他へ行ってしまった。
「危ない、危ない。ワシの心臓が分解するところだった」
そこにいたメンバー全員が頷く。
人間どもが寝静まったころ、食料庫を出て救命ボートに移動した。途中の廊下には、多くの仲間が瀕死の状態でワシらを見る。
「リーダー、仲間を助けないのですか?」
「黒ピカ! ダメだ。近づくな、触ったらお前も危ない。無理だ、無理なんだよ」
ワシは悔しくて涙が止まらない。メンバーの全員が泣いた。黒ピカのショックが気になる。