ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

  嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅤ 

「ん? 何が横に・・」
 振り向くと、腰が抜けるほど驚く。なんとワシらより数倍大きい仲間がいた。黒ピカは、恐ろしさに固まって動けない。相手は、ワシらをジッと探る様子で見ている。
 長い触角で、黒ピカに触れようか迷っている。ワシは、どうも女の子らしいと気付く。慣れないスペイン語で話し掛けてみた。
「オラー、セニョリータ!(こんにちは、お嬢さん)コモ エスタ?(いかがですか?)ヴィエロン エル ハポン(日本から来た)・・」
「エッ、エル ハポン?」
 相手が反応したので、言葉が通じたとワシはホッとする。ワシの横では、黒ピカが目をパチパチと忙しなく動かす。女の子が触角を差し向けると、逃げ腰になった。
「リーダー、もう船に戻りましょうよ」
「うん、そうだな。帰ろう・・」
 市場を出てバス停に向かう。気配を感じて振り向くと、女の子がワシらの後を追い駆けている。
「アミーガ(女性の友)、テネモス プリッサ(ワシらは急いでいる)イール ア ブラジル(ブラジルへ行く)ロ シェント(残念ですが)アディオース(さようなら)・・」
「エスペーラ(待って)ポル ファボール ソッコーホ(お願い、助けて)・・」
 体を震わせ、悲しい声で叫んだ。
「えっ、この子、何か事情がある様子だ。リーダー、どうします」
「仕方ない、船へ連れて行こう。誰かが、通訳してくれるだろう」
「そうですね」
「ベンガ コミーゴ(私と一緒に来なさい)・・」
「ムイ グラシアス(ありがとう)・・」
 この体格では、人間どもに発見され易い。港に着いたら日が暮れるまで待ち、タイミングを見計らって一気に乗船しようとワシは考えた。船に近い倉庫の隅で、様子を見ながら待っていた。出港の汽笛が鳴った。ワシらは急いでタラップを駆け上がる。
 仮の棲み処は小さく彼女には無理だと思い、デッキの救命ボートへ連れて行く。黒ピカが、ゴキジョージたちを呼びに行った。
「ミ ノンブレ(ワシの名前は)ゴキータ。 ス ノンブレ(あなたの名前は)?」
「ブリ―リア、コロンビア―ナ」
「コロンビアのブリ―リア・・」
 黒ピカは、ゴキジョージとメキシコ出身のブリカーノを連れて来た。ブリーリアがコロンビア出身と聞いて、首を傾げる。同じスペイン語だが、国によって表現が異なる場合もある。いずれにしても、どうにか彼女の事情を聞き出すことができた。
 ブリ―リアの説明では、コロンビアの仲間はペット・フード用に捕獲され、欧米諸国へ売られている。彼女も掴まったが、逃げ出してあの市場で隠れていたという。
「え~、ペットにされないで、食用だって? 誰が食べるのさ?」
 黒ピカが驚き、怒りを露わにした。

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