嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅢ
「それは、ハワイの仲間だ。アローハ(こんにちは)と挨拶して、英語で話せばいいのだ。まさか、英語がダメなのか?」
「話せませんよ。日本語だけです。オイラには、勉強する暇もなければできる頭も無い。リーダーは話せるのですか?」
「ああ、ワシの棲み処は中央公民館だった。英語教室や国際交流の集いがあり、知らぬ間に耳で覚えてしまった。ゴキ江や子供たちは、ペラペラだ。でもな、黒ピカよ。話せなくとも、友達になれば以心伝心だ」
「えっ! 石に電信柱?」
また意味不明な聞き覚えのない言葉に、黒ピカは戸惑う。
「お前の耳は、可笑しいのか?」
「いえ、オイラの耳は、笑うほど可笑しくないです」
真剣な眼差しで、ワシに反論する。
「ワシが言う可笑しいとは、変だという意味だ。以心伝心とは、信頼関係だけで不要な言葉はいらない。心と心が通じ合うことだ」
「あっ、なるヘソ。ガッテン承知のスケ」
黒ピカの訳の分からぬ反応に、ワシは愕然とする。これ以上の会話は無理と考え、プイッとそっぽを向く。ヤツは哀れな様子で、トボトボとどこかへ行ってしまった。
しかし、翌日にはいつもの黒ピカに戻り、陽気な顔でワシに話しかけた。
「リーダー。アローハの仲間と、石に電信柱ができましたよ。簡単でした」
ワシは、敢えて誤りを訂正せずに、にこやかに聞く。
「そうか、それでどうした?」
「はい、黙ったままキッチンで一緒に食事ができました」
「ふぅ~、それは・・、良かったな」
ホノルルを出港して五日目。ロサンジェルスのロングビーチに入港。またしても、下船できなかった。黒ピカは意気消沈し、船内を夢遊病者のように歩く。
メキシコのアカプルコ沖を通過中に、大事件が勃発した。
ワシが仮の棲み処で休んでいると、人間どもの話が聞こえてきた。ワシらを撲滅する計画である。確かに、ロサンジェルスから多くの仲間が乗船した。彼らは人間どもに気を配らず、自由奔放な生活を始めたからである。
《これは大変だ。仲間に早く知らせないと・・》
ワシは、キッチンに近い現在の棲み処を、デッキの救命ボートに移動する。黒ピカからハワイの仲間に注意を呼びかけた。
救命ボートの中で、二日ほど過ごす。我慢の限界に近づく黒ピアに、もう一日だけ我慢しろと忠告する。だが、ヤツは仲間を心配して、救命ボートから飛び出して行った。
仕方なく、ワシもヤツの後を追う。船内には、仲間の姿が見つからない。