嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅠ
「長い道のりだ。安全で快適な、仮の棲み処を探さなければ・・」
「リーダー。それよりも、先に何か、食べませんか?」
「そうだな、前の方からいい匂いがする。行ってみよう」
貨物船のためか、人間どもの姿が少ない。安心して行動ができる。キッチンは意外と広く、清潔であった。直ぐに残飯の在りかを探し当てた。ワシらは用心を怠り、食事に没頭する。
『バッシ、バッシ・・』
不意に叩かれた。
「黒ピカ、早く逃げろ!」
「な、何? ど、どうしたの?」
「何もどうもない。は、早く・・」
ワシは、ほうほうの体で逃げる。
《殺虫剤スプレーでなく、助かったぞ。人間どものいない時間を、確かめておく必要があるな。はて、ヤツはどこへ・・》
黒ピカの行動を考える。ヤツは必ず引き返すと思い、キッチに行く。
「黒ピカ! ここにいるのか?」
「はい、リーダー。ここにいますよ~」
「やはりな。お前なら、食べ残しを捨てる訳がない。必ず戻ると思った。さあ、引き揚げよう」
「うっぷ、あ~食べた、食べた。腹がいっぱいで、歩けませ~ん」
「急げ! 見つかったら、押し潰されるぞ!」
「それは困る。絶対に困る~。せっかく満腹になったのに、勿体ない」
《世話の焼けるヤツだ。棲み処は、キッチンに近い場所を探そう》
黒ピカにとって、初めての船中生活。ヤツは翌朝から、ウロウロと歩き回った。
「リーダー。随分揺れるけど、この船は沈まないですよね」
「ああ、大丈夫だ。と思う」
「えっ、思う。ですか?」
黒ピカは、ワシの答えにギョッと驚く。
「当たり前だ。絶対と言い切れないのが、この世の中の道理だ。この揺れは、黒潮を乗り越えるまでだ。縦、横と揺れるから、気を抜くな」
「黒白、縦、横? なんですか?」
今度は、キョトンとする黒ピカ。
「なんと愚かな! 黒白ではなく、黒潮という海流だ。海の中に大きな川が流れていると思え。縦はピッチング、横はローリングという揺れ方だ」
「海の中に、大きな川? まあ、いいや。沈まないと分かれば、オイラは平気だ。葉のヨットで、川の流れに慣れっこだい」
今度は、ワシの方が無い首を傾げてしまった。