ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第四章 Ⅹ

 亜紀は、千香の言葉を信じられないと、マジに彼女の目を覗いた。
「まっ、本当にそう思っているの? 千香!」
 千香の顔が歪み、笑い出した。
「うふふ・・、ウソよ!」
「アハハ・・、あ~、驚いた!」
 ふたりは仰け反り、手を叩き大笑い。そして、テーブルの上のカステラを食べ、ガラナを飲んだ。千香の顔が、スーッと真顔になる。
「亜紀、輝君との歳の差は無くなったわね。最後まで、大事にしてあげてね。天国に行ったら、伯母さんに報告する義務があるから・・」
 亜紀の心に、えも言われぬ風が吹き、胸が締め付けられる。
「寂しいことを言わないで・・、私の大好きな千香! でも、大丈夫よ。輝君のお母さんに宜しく伝えてね」
「だって、仕方がないもの」
「いいえ、諦めないで。私より彼の方が、悲しむわ。輝君の前では、弱気なことを言わないと約束してちょうだい。お願いよ、千香!」
「・・、うん・・、分かった」
 部屋のドアがカチャリと音がして、輝明が戻ってきた。
「あっ、お帰りなさい。早かったのね」
 亜紀が先に声を掛けた。千香は顔を下に向け、黙っている。
「ただいま、うん、挨拶だけだったから。千香ちゃん、どうなの? 少しは楽かな?」
「輝君がいないので、寂しがっていたわ」
 亜紀が先ほどの、お返しに応える。千香が直ぐに反応した。
「誰が寂しいの? 私は夫や子供たちが、傍にいないから落ち込んでいるだけよ」
《よし、タイミングよく話せるぞ》
「じゃあ、明日の便で帰るからね」
 ふたりの目線が同時に輝明へ向けられた。ただ、ふたりの目線は、異なる思いが込められている。千香は、不満。亜紀は、戸惑いであった。
「どうして、明日なの? 一週間の予定でしょう。嫌よ。まだ帰らないわ」
《もう、帰ってしまうのね。胸が苦しい・・》
「うん、千香ちゃんの体が、一番よく分かっているはずだ。ブラジルの気候に慣れてしまうと、日本に帰ってから辛くなるよ。先ほどの先生も心配している」
 亜紀は頷くが、千香は、まだ不服の様子。
「千香ちゃんの気持ちは、オレにも分かる。オレだって、まだ帰りたくないよ」
 輝明は、チラッと亜紀の顔を見る。亜紀は真剣に彼を見詰めた。
「だけど、オレにとって、大切な千香ちゃんのことだ。帰ろう?」

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