ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第四章 Ⅷ

「もう帰るの? このまま、この清々しい海の空気を吸いながら、穏やかに眠りたい」
《千香ちゃんの気力が、弱々しくなっているなぁ。やはり、早めに日本へ帰ろう》
「うん、ゆっくりさせてあげたいけど、さあ、ホテルへ帰ろうね。千香ちゃん・・」
 北島も心配して、輝明の顔を見る。
「北島さん、明日の便の再確認をお願いします。それに、これから援護協会の医師に診察をお願いして、明日の帰国便に乗れる状態なのか聞きたいと思います」
「はい、手配します」
 輝明は、亜紀を呼ぶ。
「亜紀さん、これから千香ちゃんを援護協会に連れて行くので、診察に同行していただけますか?」
「ええ、分かりました」
 岬のレストランを離れ、急ぎサン・パウロに引き返す。診療所の受付けに、佐和が心配の様子で待っていた。到着すると、待機していた医師が直ぐに対応した。
 診察の間、輝明は落ち着けなかった。半時後、佐和が診察室から出て、輝明に報告する。
「千香さんは疲れが原因ですって。先生が説明しますので、少しお待ちください」
 佐和は、そのまま事務所へ戻った。輝明はエレベーターまで同行して礼を言う。しばらくして、医師から呼ばれ説明を受ける。千香の容態は、明日の搭乗に問題無いと説明され、輝明は心から安堵した。
 彼は、付き添いの亜紀に交代を告げたが、彼女は首を横に振る。
「いいの、私は平気よ。先に食事をしてきなさい」
「じゃあ、お願いします。外にいますので、何かあれば呼んでください」
 外で待っていた北島と、文化センター横の食堂へ行く。
「安心したら、お腹が空きましたよ。北島さん、何か食べましょうか?」
「そうですね。私はラーメンがいいですね。それにチャーハンも」
「私も同じで・・」
 久しぶりの味を満喫しながら、輝明は明日の日程について北島と打ち合わせをする。明日は、無理な予定を組まずにホテルで過ごす。空港へは、軽い夕食を済ませてから向かうことにした。
「ただ、気懸かりなのは、千香ちゃんに明日帰ることを伝えていないんだ」
「奥様は・・、お怒りになるでしょうね」
「仕方ないさ。でも、理解すると思うよ。自分の体調は本人が一番分かっているから」
 食後のカフェを飲み、診療所に戻る。ちょうど、千香の点滴も終わった。その後、ホテルに三人を送り届け、北島とマルコスは事務所へ帰った。
 輝明は、亜紀に千香のことを頼み、近くの群馬県人会へ帰国挨拶に出掛けた。千香は点滴のお陰で、少しは楽になった様子を見せる。
 部屋のソファに体を休め、日本から持参したカステラを亜紀と一緒に食べた。
「亜紀、まだ話すことがあるの。輝坊ちゃんのことを・・」

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