亜紀は奈美から離れ、千香に近寄る。千香の顔を間近に見ながら、小刻みに震える手で頬に触れた。 「遅くなって、ごめんね。千香・・、あなたの好きなマルコスを連れて来たわよ」 マルコスを呼び、千香に会せる。 「チア、チア・・。会いに来たよ。大好きなチア・・」 千香の顔が、ほんの僅か反応したように見え... 続きをみる
2017年11月のブログ記事
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慣れない首都高速から外環道を回って、ようやく関越道に入ることができた。高坂のサービス・エリアで休憩する。初めて見る光景に亜紀とマルコスは、輝明の傍から離れられない。とりあえず、ふたりをトイレに案内する。 幾らか落ち着いてきた二人を、レストランに連れて行く。 「さあ、何が食べたい?」 「輝君は、... 続きをみる
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翌日の朝、昨晩から病室で見守っていた輝明は、奈美と交代して家に帰り仮眠をする。昼過ぎに起き、近くの食堂で昼食を済ませると再び病院に行く。千香の容態を見届けてから、車で成田へ向かった。 午後五時に成田空港へ着いた。輝明は幾度も到着ボードを凝視する。逸る心を抑えているが、到着間近になると心は勝手に... 続きをみる
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千香が顔を歪め苦しみだした。輝明は直ぐにナース・コールを押す。看護師が廊下を駆けて来た。三人は、部屋の隅に固まり対応を見守る。看護師は院内携帯で医師に連絡。三人は廊下で待つよう指示された。千香の苦しむ声が、廊下で待つ三人の耳に聞こえる。 「輝叔父さん、何かあったの?」 その時、東京の貴志が到着... 続きをみる
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胸ポケットの携帯を取り出し、受信ボタンを押す。 「輝君!」 霞む目の前に、亜紀の顔が浮かび上がった。 「あ、亜紀さん! 早く来て・・」 「えっ、まさか・・、千香が危ないの?」 「亜紀さん、もう余裕がないよ」 「明日の朝、出発よ。二日後の夕方に到着するわ」 「本当だね?」 「ええ、間違いないわ。... 続きをみる
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「うん、見せて・・ね」 千香は歪んだ顔をチラッと見せ、また目を閉じてしまった。病室内のモニター音が反響して、輝明の頭の中を駆け巡る。 「オレ、売店に行ってくるね」 その場にいたたまれない輝明が廊下に出ると、年配の看護師から呼び止められた。 「あっ、金井さん! ちょうど良かったわ。吉田先生から連... 続きをみる
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病院の外に出ると粉雪が舞っていた。頬を掠める雪が体温でスッと溶ける。輝明は空を見上げた。暗い空間から無数の白い塊が、彼を目がけて落ちてくる。その一つ一つが千香の記憶に思え、輝明は瞬きもせずに白い塊を目で追う。 家に帰り、疲れた体をソファに投げ出す。輝明は抑え切れない心の苦痛を、唯一支えてくれる... 続きをみる
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翌朝、千香は昨晩の亜紀からの電話で、精神的に元気な顔を見せた。本人の希望もあって、高崎市内や観音山をドライブすることにした。 介護タクシーを呼び、輝明も同乗して出掛けた。観音様はタクシーの中から参拝する。忠霊塔前の駐車場から、高崎市内が一望できた。 高崎市内を望む千香のうつろな瞳。愁いをおび... 続きをみる